2020年から小学校においてプログラミング教育が必修化され、その影響で「プログラミング教育」の言葉を頻繁に目にするようになりました。しかし、まだ多くの人がその内容や意義について理解していないこともあるのではないでしょうか?「プログラミング教育って具体的に何を学ぶの?」「プログラミング言語を習得するの?」
今回はそんな方に向けて、プログラミング教育についてのよくある誤解を解き、その目的や意義を明らかにしていきます。プログラミング教育の必修化は、将来の社会で必要とされるスキルを育成するための取り組みであり、コンピュータ言語の学習というわけではなく、論理的思考や問題解決能力の育成を目指しています。このコラムでは、プログラミング教育の意義を理解し、子供たちに与える影響について詳しく解説していきます。
プログラミング教育必修化の背景と目的
プログラミング教育必修化の背景
この改革の背景には日本国内でのIT人材の不足があります。
経済産業省の発表によると2020年に36.9万人、2030年には78.9万人のIT人材が不足すると予測されています。
今後もIT関連ビジネスが拡大し続けていくのとは対称的に、そこに対応できるIT人材は足りなくなると言われているのです。IT人材は足りなくなると言われている実際に世界の中で日本企業の存在感が薄れてきているのを感じている方もいるでしょう。
Google、Apple、Facebook、Amazon、MicrosoftはITの5大企業と言われています。いずれもグローバルカンパニーに成長した企業です。ITの分野においてはアメリカはもちろんの事、インドの台頭も目覚ましく、GoogleのCEOはサンダー・ピチャイというインド出身の人物です。
またLINEやTikTokなどの最近人気のアプリも韓国や中国製のものであり、IT分野でも日本は後れを取ってしまっている現実があります。
総務省の発表によると、WEF(世界経済フォーラム)が毎年公表しているICT競争力ランキングにおいて、2005年当時は日本の順位は8位でしたが、近年では西欧諸国やシンガポールが上位を占める中、15~20位付近で低迷しており、2014年時点では16位に留まっているという結果となりました。
そうした現実を背景に、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されました。
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プログラミング教育必修化の目的
プログラミング教育の必修化は、単にプログラミング言語を学ぶことではなく、論理的思考力や創造性、問題解決能力を育むことを目的としています。これらの能力は、将来どのような職業に就いても重要であり、プログラミング的思考はその基礎となる力です。
具体的には、文部科学省の有識者会議で示されたように、まずは身近な生活でコンピューターがどのように活用されているかに気付かせ、その後問題解決に必要な手順を考える訓練を行います。これによって、生徒は抽象的な問題を具体的な手順に分解し、論理的に解決策を導く能力を身につけます。
文部科学省の有識者会議ではプログラミング教育の内容として以下が挙げられています。
- まずは身近な生活でコンピューターが活用されていることに気付かせる。
- 問題の解決には必要な手順があることを教え、論理的思考を身に付ける。
- 各教科で育まれる思考力を基盤としながら、基礎的な「プログラミング的思考」を身に付けること。
プログラミング教育の必修化についてはイメージしづらい部分もあり、よく次のような誤解をされていることもあります。
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プログラミング教育 よくある誤解3つ
誤解1. プログラミング科目ができるわけではない
誤解されがちですが、「プログラミング」という独立した科目ができるわけではありません。
総合学習や理科、算数の時間などにプログラミング思考を養う授業が盛り込まれるようになります。
総合学習や理科、算数の時間などにプログラミング思考を養う授業が盛り込まれるようになります。
文部科学省と総務省、経済産業省が連携して立ち上げたプログラミング教育のポータルサイト「未来の学びコンソーシアム」には、学習指導要領に各教科の単元等で実施するべき内容が紹介されています。
- 算数(第5学年):図形 正多角形(プログラミング環境のScratchを利用し正多角形を作図)
- 理科(第6学年):物質・エネルギー 電気の利用(ソフトウェアを使用し入力した条件に応じてものを動かすことを体験する)
- 総合的な学習の時間:情報に関する探究的な学習(ものづくりを通してものづくりの魅力を知るとともにコンピュータの動きをよりよい人生や社会づくりにいかそうとする態度を養う)
誤解2. プログラミング言語を学ぶわけではない
「プログラミング教育必修化」においてはPHPやJAVAなどのプログラミング言語を一から学ぶわけではありません。
それよりも「プログラミング的思考」を身に付けることが重要視されています。
プログラミング的思考とは論理的に考える力です。
新学習指導要領と同時に公示された「学習指導要領解説」には自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号をどのように組み合わせたらいいのか、記号の組合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、ということを論理的に考えていく力 と定義されています。
このようにプログラミング的思考は、プログラミングだけではなくどのような職業においても役に立つ能力です。
誤解3. 必ずしもPCを使って授業するわけではない
前述のとおり、プログラミング教育は「プログラミング技術」ではなく「プログラミング的思考」を身に付けるためのもので、必ずしもパソコンを使うとは限りません。例えば、物理的なロボットを組み立ててその動作をプログラムする実習も行われています。
では実際にどのようなことをするのでしょうか?
次に実際の事例を紹介します。
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プログラミング教育の例
では具体的に「プログラミング教育」とは何をしていくのでしょうか。
プログラミング学習では目的を達成するためにはどういう工程を組み合わせたり、条件を組み合わせるかを考えていくことが大切になります。
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プログラミング教育の考え方
個人的に思うこととしては、プログラム言語を駆使してプログラムが書ける(コーディング)能力よりも、ひらめきやアイデアを実現するにあたって論理的に考え、実行段階まで落とし込めるような人材を求めているのかなと思います。
単純なコーディングや、言われたことをただ行うプログラミングであれば、海外にも安く仕事を外注することが珍しくない時代です。
それよりもプログラミングの思考を持って、ひらめきやビジョンと実際のプログラミングとの懸け橋となれるような人材の育成を狙っているように思います。
例えばAppleにおいても、数々の製品を完成させたのは天才プログラマであるスティーブ・ウォズニアックですが、成功の起爆剤となり、Appleをけん引したのはひらめきやアイデアを思い付いたスティーブ・ジョブズでした。
お母さんにカレー作って!と言えば美味しいカレーが出てくるかもしれませんが、プログラミング学習では「おいしいカレーを作るには何の材料を組み合わせてそれをどういう順番で作っていけばいいのか」という思考が求められます。
これは学生のうちだけでなく、大人になって社会人になった時にこそ重要になる思考です。
ほとんどの仕事で何らかの目的・目標に対して、どういう能力(人材)が必要で、どういう順序で進めていけば無駄なく効率的に目的・目標を達成できるのかを考えることは必要になります。
(私たちも目標達成のためには社内だけでなく、石黒堂株式会社様のような社外の方にもご協力して頂くこともあります。)
佐賀県武雄市の実例
2012年に全国に先駆けていち早く、佐賀県の武雄市の一部の小学校ではDeNAの協力もあってプログラミング学習を取り入れました。
武雄市の山内西小学校では、1年生は「繰り返し」「条件」という技術を用いて釣り人をタップすると糸が垂れて魚を釣り上げるというミニゲームの作品を制作しています。
この場合に必要となるのは、
- 「どうしたら釣り糸を動かせるのか」(動作)
- 「釣り糸が魚にぶつかったら魚が消えるが、そうでない場合は消えない」(条件)
- 「動作が終わったらもとに戻り繰り返せる」(繰り返し)
の要素だと思います。
自分が思い描く形をこれらの要素に分解して、組み合わせていくなど、「どうやったら実現できるのか」を論理的に考えていく力を養うことがプログラミング学習に求められていることなのです。
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小学校のプログラミング教育についてまとめ
今まで見てきたように、2020年からの小学校でのプログラミング教育必修化は、日本のIT人材不足に対する対策として重要な一歩です。文部科学省は、プログラミングを通じて論理的思考や問題解決能力を育成することを目指しています。一般的な誤解を解き、実際には具体的なプログラミング言語の学習ではなく、基本的なプログラミング的思考の養成が重要視されています。
今の小学生が学校で学んでいるプログラミング学習により、今後現代社会で必要なスキルを身につける土台が築かれます。